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広島高等裁判所 平成3年(ネ)84号 判決

控訴人

木村要子

黒河須麻子

右両名訴訟代理人弁護士

高井昭美

内山新吾

被控訴人

山口県

右代表者知事

平井龍

右指定代理人

稲葉一人

外七名

被控訴人

新光産業株式会社

右代表者代表取締役

古谷博英

亡村田喜奈雄承継人

村田カツノ

村田茂

河野喜志江

村田由美子

右五名訴訟代理人弁護士

蔵谷和義

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人らは控訴人らに対し、次の表記載の各金員及びこれに対する昭和六〇年九月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人らのその余の請求を棄却する。

控訴人

(権利者)

木村要子

黒河須麻子

合計

被控訴人

(義務者)

山口県

二七九九万〇五六三円

二七九九万〇五六三円

五五九八万一一二六円

新光産業

株式会社

二七九九万〇五六三円

二七九九万〇五六三円

五五九八万一一二六円

村田 カツノ

一三九九万五二八一円

一三九九万五二八一円

二七九九万〇五六二円

村田  茂

四六六万五〇九三円

四六六万五〇九三円

九三三万〇一八六円

河野 喜志江

四六六万五〇九三円

四六六万五〇九三円

九三三万〇一八六円

村田 由美子

四六六万五〇九三円

四六六万五〇九三円

九三三万〇一八六円

合  計

二七九九万〇五六三円

二七九九万〇五六三円

二  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを五分し、その一を控訴人らの負担、その余を被控訴人らの負担とする。

三  この判決の一項1は、仮に執行することができる。但し、被控訴人山口県は、控訴人らに対し、それぞれ金二六〇〇万円の担保を供するときは、当該控訴人の右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人山口県、同新光産業株式会社は、各自、控訴人らに対し、それぞれ金三六八六万一四九〇円及び右各金員に対する昭和六〇年九月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人新光産業株式会社と連帯して被控訴人村田カツノは、控訴人らに対し、各金一八四三万〇七四五円、被控訴人村田茂、同河野喜志江、同村田由美子はそれぞれ、控訴人らに対し、各金六一四万三五八一円及び右各金員に対する昭和六〇年九月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5  2、3について仮執行宣言

二  被控訴人ら

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

3  (被控訴人山口県)

担保付仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決五枚目裏二行目から九行目までを次のとおり改める。

「(三) 本件鉄扉の転倒原因

本件事故当時、本件鉄扉の下部レール部分を乗せている基礎コンクリート部分が沈下していたため、ガイドレールとガイドローラーとのかかりが小さくなって、転倒防止機能を有しないか、その機能が弱くなっていたうえに、トラックによる牽引の力が加わって、ガイドレールからガイドローラーがはずれて転倒したものである。仮に、転倒開始時点で、トラックによる牽引の力が本件鉄扉に加わっていなかったとしても、転倒を生ずる危険な位置まで本件鉄扉を移動したという点において、トラックによる牽引は原因を与えているものである。」

二  同六枚目表二行目の「約一〇日前」を「九日前の昭和六〇年八月二二日」と改め、四行目の「従事し」の次に「、その際、本件鉄扉が転倒しかかっ」を加える。

三  同七枚目表八行目の「右鉄扉が老朽化して」を「本件鉄扉のガイドレールとガイドローラーのかかりが小さくなって、転倒防止機能を有しないか、その機能が弱くなって」と改め、一〇行目の次に「そして、本件事故の九日前の事前点検において、本件鉄扉に開閉の異常があり、その際、トラックによる牽引を行い、本件鉄扉が転倒しかけたのであるから、本件鉄扉の転倒の危険性は十分に予測し得たものである。」を加える。

四  同八枚目裏一〇行目から九枚目表三行目までを次のとおり改める。

「5 一審被告亡村田喜奈雄(以下「亡村田」という。)は、本訴提起後の平成二年三月一五日に死亡し、その相続人は妻である被控訴人村田カツノ、子である被控訴人村田茂、同河野喜志江、同村田由美子である。

6 よって、控訴人らは被控訴人らに対し、3摘示の責任原因による損害賠償請求権に基づき、右各損害金(被控訴人会社、同県に対しては、各自、各三六八六万一四九〇円、亡村田の相続人らに対してはその法定相続分に応じて、被控訴人会社と連帯して、被控訴人村田カツノに対し各一八四三万〇七四五円、被控訴人村田茂、同河野喜志江、同村田由美子に対し、それぞれ各六一四万三五八一円)及びこれらに対する本件事故日以後である昭和六〇年九月一日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

五  同一〇枚目表九行目の次に改行して「5 同5は認める。」を加える。

六  同一二枚目裏一〇行目の次に「また、本件鉄扉の閉鎖作業は、亡村田、亡木村が自発的に行ったものであり、被控訴人会社の指示によるものではないから、被控訴人会社の事業の執行についてなされたものではない。」を加える。

第三  証拠〈省略〉

理由

一本件事故の発生、本件鉄扉、本件事故発生に至る経緯及び本件事故の原因についての認定判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決一七枚目裏一行目から二八枚目表四行目までと同一であるから、これを引用する。

1  原判決一九枚目裏四行目から二一枚目表二行目までを次のとおり改める。

「3 事前点検

〈書証番号略〉、原審証人重富智勝、当審証人米原守人、同正木茂義の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

本件鉄扉は、昭和四一年に設置されたものである。

管理事務所は、昭和六〇年八月、被控訴人会社に宇部港の防潮鉄扉の開閉等の点検を依頼し、うち本件鉄扉については、同年八月二二日、正木茂義(当時被控訴人会社鉄鋼事業部工事課工事係長)、亡村田ほか一名が点検し(以下「本件点検」という。)、本件鉄扉の下部のレール部分の溝を清掃した後、本件鉄扉を人力で押して閉めようとしたが、車輪と下部レール間に木屑が残存していたため、最後部から二番目のガイドローラーとガイドレールが接触し、閉めることができなかったので、ふれ止め部分上の二個のガイドローラーを外したうえ本件鉄扉にワイヤーをかけてトラックで牽引して右扉を閉めたが、その際、本件鉄扉がトラックに倒れかかったため、本件鉄扉をレッカーで起こし、右木屑を撤去する等して、トラックで再度開閉を繰り返して、本件鉄扉の開閉が可能であることを確認したが、人力で開閉できるようになったか否かまで確認することなく、点検作業を終了した。

管理事務所施設課施設係長である米原守人も、当日本件鉄扉を含む防潮鉄扉の点検に立会い(もっとも、終始立会ったのは、第一ゲートの鉄扉のみで、第二ゲートの本件鉄扉などはのぞいただけ)、たまたま、本件鉄扉をトラックで牽引し、本件鉄扉がトラックに倒れかかったことを現認したが、本件鉄扉の右転倒の原因の究明及び対策の検討をすることまではしないまま放置し、被控訴人会社、亡村田も同様であった。

また、トラックによる牽引の禁止が周知徹底された形跡もない。

〈書証番号略〉(打合せ覚書)には、本件鉄扉は溝清掃後人力で作動することを確認した旨の記載があり、〈書証番号略〉(点検報告書)には、本件鉄扉は清掃注油後人力で可動するようになった旨の記載があるが、原審証人重富智勝及び当審証人米原守人の各証言によれば、これらの文書は本件事故後一か月くらいしてから作成、管理事務所に提出されたものであることが認められ、その記載内容も、前掲証拠に照らして信用できない。また、原審証人重富智勝は、外したガイドローラーが最後部の一個であると聞いたと証言するが、この点は、当審証人正木茂義の証言に照らし採用し難い。他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」

2  同二一枚目表四行目から同裏七行目までを次のとおり改める。

「1 本件事故当日の本件鉄扉付近の状況と管理事務所の判断

〈書証番号略〉、原審証人重富智勝及び当審証人米原守人の各証言を総合すれば、次の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。

本件事故当日は、宇部港付近に台風が接近して来ており、午前八時から九時ころの間において、平均風速二〇メートル、最大瞬間風速二五メートル以上の東風が吹いていて、気象台からは暴風雨波浪高潮警報が発令されていた。管理事務所の職員は、職員録によれば、所長以下一三名であるが、うち一名は女性、所長は本件事故当日不在で、本件事故当時何名が在庁していたかは定かでないところ、防潮鉄扉は、前記のとおり宇部港全体では一六〇余り、管理事務所周辺の管理事務所の管理する分だけでも八門あり、その中には一人で開閉できるものもあるが、本件鉄扉のように重さ約二トンもあり、なんら支障がなくても五人がかりくらいでないと開閉できないものもあった。防潮鉄扉を閉鎖するか否かの判断は管理事務所長に任されていたが、判断の基準は特に定められてはいなかった。本件事故当日は、管理事務所長は不在で所長の事務は施設課長が代行していたが、同課長は、本件鉄扉付近の基本水準面が4.5メートルであるのに対し本件事故当時の潮位は4.1メートルであって四〇センチメートルの余裕があったこと、本件事故当時は東風すなわち陸方向からの風であったことなどから、本件鉄扉を閉鎖する必要性があるとは考えず、防潮鉄扉閉鎖の指示はしていなかった(もっとも、同課長は、なにびとからか防潮鉄扉の閉鎖の要否について判断を求められて、右のとおり判断したというのではなくて、要するに積極的に閉鎖の指示はしなかったというにすぎない)。しかし、台風の接近に伴い、施設係長の米原守人は、前記八門の防潮鉄扉のうち一人で開閉できる小さい扉二門か三門は閉鎖したし、右八門以外の防潮鉄扉の中には、管理事務所からの指示で被告会社が修理のため持ち帰っていたものを持参して取り付けたもの二門、動かないため同じく管理事務所からの指示で閉鎖する代わりに土のうを積むことにしたもの三門があったほか、管理事務所からの指示なしに出入りの業者が閉鎖していたものもあった。」

3  同二二枚目表五行目の「会社に対し、」の次に「高潮対策のため、」を加え、六行目の「仮設的」を「応急的」と改める。

4  同二二枚目裏四行目の「右」から六行目の「できず、」までを削る。

5  同二三枚目表四行目の「第一、二回」を「原審第一、二回、当審」と改め、「ただし、後記採用しない部分を除く」を削る。

6  同二三枚目裏六行目の「こね上げる」を「こねて押す」と改める。

7  同二四枚目表三行目の「亡木村が」から四行目の「被告村田は、」までを削除する。

8  同二四枚目表九行目「また」から一一行目「こと」までを、「本件事故直後に魚本が本件鉄扉の下部の車輪及びそれが走行する基礎部分のレールを見たところ、車輪はかなり錆びついており、またレールの西側の縁には車輪がその上を引きずられたような跡があったこと」と改める。

9  同二四枚目裏一、二行目の「右認定に反する魚本直男の証言部分は前掲各証拠に照らし採用することができず、他に」を削る。

10  原判決二六枚目表六行目から二八枚目表四行目までを次のとおり改める。

「2 右1の認定事実に前記二2及び三の認定事実を総合すると、本件鉄扉は、ガイドローラーがガイドレールの中を走行することによって転倒を防止する構造になっており、本来ならば容易に転倒するものではないのであるが、昭和四一年に設置されたものでかなり老朽化しており、本件事故当時には、欠損等こそなかったものの、扉下部の車輪や基礎部分のレールには錆が付着し、かつ、レールの基礎地盤が沈下していたため、車輪がレール上を円滑に進行しない状態になっていたばかりでなく、最も基礎地盤の沈下の著しい箇所では、扉上部のガイドローラーがガイドレールから外れ易い状態になっていた、そのような本件鉄扉を本件トラックが西側やや斜め前方から前方に牽引したことにより、最も基礎地盤の沈下の著しい箇所にさしかかった際、折からの東からの強風と相まって、本件鉄扉のガイドローラーがガイドレールから外れて、本件鉄扉が西側に転倒し、亡木村がその下敷きになった、これが本件事故の経過であり、原因であると推認される。

被控訴人県は、本件事故時本件鉄扉のガイドローラーは外されており、それが本件鉄扉転倒の原因となったと主張するが、本件事故時本件鉄扉のガイドローラーが外されていたと認めるべき証拠はまったくなく、かえって、当審証人魚本直男の証言によれば、本件事故時本件鉄扉のガイドローラーはすべて付いていたと認められる。被控訴人県は、また、本件鉄扉転倒の原因の一つとして、亡村田が本件鉄扉をトラックで無理に斜めに牽引したということを挙げる。しかし、この点は、トラックで牽引する以上やや斜め前方から前方に引くことになり、その結果本件では西側に幾分力が働くことは否定し難いけれども、亡村田がそれ以上に無理に斜めに牽引したという証拠はないばかりか、前認定の実況見分時に基礎部分のレール、ガイドローラー及びガイドレールに破損及び屈曲がなかったことからすると、そのような事実はなかったものと認められる。被控訴人県は、更に、亡木村のバールの使用も本件鉄扉転倒の原因であったかのように主張するが、バールの使用が本件鉄扉転倒の直接の原因とはなっていないことは、前認定の本件事故発生に至る経緯から明らかである。」

二被控訴人らの責任

1  亡村田の責任

前認定のとおり、亡村田は、事前点検の際、トラックによる牽引により、本件鉄扉が転倒しかけたことを知りながら、本件事故の際、平均風速毎秒二〇メートル、最大瞬間風速毎秒二五メートル以上という強風下で、安易にトラックを用い、しかも、弁論の全趣旨によれば、亡木村に対し、本件鉄扉の転倒の危険性を告知することもなく、本件鉄扉を牽引して引き出し、その結果本件鉄扉を転倒させ本件事故を発生させたものであるから、亡村田に過失があることは明らかである。

2  被控訴人会社の責任

原審証人三木義夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、亡村田は被控訴人会社の専属的下請けとして日ごろ同会社の構内や作業現場で働き、被控訴人会社の手足としてその指揮監督に服していたこと、だからこそ、本来、金属加工が主たる業務であるにも拘わらず、前認定のとおり、本件事故時、被控訴人会社は、管理事務所から、高潮対策のため、事前点検の際に動かないとの報告を受けていた防潮鉄扉等に土のうを積む作業を依頼されると直ちに、右作業を亡村田に指示したものであることが認められる。そして、前認定のとおり、防潮鉄扉の一部はすでに閉鎖されつつあったのであるから、右指示を受けた亡村田が、先ず、高潮対策としてより有効な防潮鉄扉の閉鎖をし、閉鎖できないときは、土のうを積むという手順に出ることには十分合理性があり、かつ、指示の目的に鑑みれば、被控訴人会社の指示に反するということはできないから、亡村田の本件鉄扉の閉鎖作業は、被控訴人会社の事業の執行につきなされたものと認めるのが相当である。

したがって、被控訴人会社は、民法七一五条の責任を免れず、後記控訴人らの損害を賠償すべき義務がある。

3  被控訴人県の責任

前記のとおり、本件鉄扉は、国所有の宇部港に設置された営造物で、山口県知事が管理するものであり、被控訴人県は、山口県知事の俸給負担者であることは当事者間に争いがなく、かつ、海岸法二五条の管理費用負担者である。

ところで、国家賠償法二条一項の「営造物の設置又は管理の瑕疵」とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、右瑕疵の有無は、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用方法等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきである。

これを本件にみるに、前認定のとおり、本件鉄扉は、設置後約二〇年を経過して老朽化し、下部の車輪や基礎部分のレールには錆が付着し、車輪が円滑にレール上を進行しない状態にあったのみならず、基礎地盤沈下のため、開口状態から約5.44メートル閉鎖したところで、本来、ガイドローラーとガイドレールとのかかりが四〇ミリメートルあるところ右かかりが四ミリメートルとなってガイドローラーがガイドレールから外れ易くなっており、転倒の危険性があった。ところが、被控訴人県の現場管理者である管理事務所は、このような本件鉄扉を放置していただけでなく、前認定のとおり点検もほとんど出入りの業者任せにして十分な立会をしていなかった。

そうであるばかりでなく、本件鉄扉は、通常、人力で開閉するものであるけれども、それができないときには、自動車等の機械を利用して開閉を試みることは十分予測できるところであるが、前認定のとおり、本件事故直前の事前点検の際には、現にトラックが使用され、その結果本件鉄扉が転倒しかけたことがあり、事前点検をのぞきに来た管理事務所の職員である米原守人はそのことを知っていたにもかかわらず、管理事務所は、その原因を究明し、対応策を講ずる等の措置はなんらとらなかった。

以上の事情に照らせば、山口県知事の本件鉄扉の管理には瑕疵があるものといわざるを得ず、被控訴人県は、国家賠償法二条一項、三条一項により、後記控訴人らの各損害を賠償すべき義務がある。亡村田及び被控訴人会社の責任と被控訴人県の責任とは、前認定の事実関係からすれば、国家賠償法四条、民法七一九条による共同不法行為責任の関係にあるものと解すべきである。

被控訴人県は、本件鉄扉は本件事故当時閉鎖の必要がなかったのに、亡村田、亡木村らが管理事務所に無断で本件鉄扉を閉鎖しようとしたものであり、そのような行為は被控訴人県の担当者の予見の範囲を超えると主張する。しかし、前認定の事実関係によれば、管理事務所の防災体制は必ずしも十分であったとはいえず(防潮鉄扉は本件鉄扉のように重さ約二トンほどのものもあり、前記のような少人数の管理事務所員だけで短時間に必要な箇所だけでもすべて閉鎖することは困難であったと考えられる。)、他方、台風は接近していて(本件事故の一時間後の午前一〇時がピーク)、高潮警報も発令されていたのであるから、宇部港の潮位と本件鉄扉との間に四〇センチメートルの余裕があるからといって安心はならないのであり、さればこそ、管理事務所の施設係長米原守人や出入り業者の被控訴人会社は防潮鉄扉を閉めて廻っていたのであり、本件事故当時本件鉄扉を閉鎖する必要がなかったとか閉鎖することが予見できなかったとかいうことはできない。むしろ、管理事務所は、出入りの業者が防潮鉄扉を閉めて廻ることを暗に期待していたし、被控訴人会社ら出入りの業者もそのような管理事務所の意を体して防潮鉄扉を閉めて廻っていたと考えられるのである。被控訴人県の右主張は採用できない。

三損害

1  〈書証番号略〉によれば、亡木村の相続人は、妻である控訴人木村要子、長女である控訴人黒河須麻子であることが認められる。

2  逸失利益

本件全証拠によっても、亡木村が、本件事故当時、五〇万円を下らない月収を得ていた事実は認められない。

〈書証番号略〉、当審における被控訴人木村要子本人尋問の結果によれば、亡木村は、中卒で死亡当時五〇歳の健康な男子であり、木村組という屋号で従業員を使用して鉄工所の経営をしていたが、必ずしも多額の黒字経営であったということではないことが認められ、また、本件事故により死亡しなければ六七歳まで稼働しえたものと推認できるから、昭和六〇年賃金センサスの産業計、企業規模計、中卒、五〇ないし五四歳男子労働者平均賃金の年間合計四二四万五七〇〇円の収入を得ることができるものと推認され、これを基礎として右稼働期間を通じて控除すべき生活費を三割とし、中間利息の控除につき新ホフマン式計算法を用いて死亡時における亡木村の逸失利益の現価額を算出すると、次式のとおり三五八九万二四二六円となる。

424万5700円×(1−0.3)×12.0769=3589万2426円

3  葬儀費用

本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は八〇万円と認める。

4  慰謝料

当審控訴人木村要子本人尋問の結果によれば、控訴人らが、亡木村の死亡により受けた精神的苦痛は計り知れないものがあることが認められるところ、右精神的苦痛に対する慰謝料としては、控訴人らに対し各七五〇万円をもってするのが相当である。

5  損害の填補

〈書証番号略〉、原審証人名和田洋二の証言によれば、被控訴人会社が葬儀費用として七一万一三〇〇円出捐していることが認められるから、2ないし4の損害合計五一六九万二四二六円から右金員を控除すると、五〇九八万一一二六円となる。

6  弁護士費用

本件事案の性質、審理経過、認容額に鑑みると、控訴人らが本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用は各二五〇万円が相当である。

7  そうすると、控訴人らの損害は各二七九九万〇五六三円となる。

四請求原因5(亡村田の死亡とその相続関係)は当事者間に争いがない。

五以上によれば、控訴人らの本訴請求は、被控訴人会社、同県に対し、各自、各二七九九万〇五六三円及びこれらに対する本件事故日の翌日である昭和六〇年九月一日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払、被控訴人村田カツノに対し、各一三九九万五二八一円、被控訴人村田茂、同河野喜志江、同村田由美子に対し、それぞれ各四六六万五〇九三円及びこれらに対する前同同年九月一日から各支払ずみまで前同年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。

よって、本件控訴は一部理由があるから、原判決を右の限度で変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言及び仮執行免脱宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 露木靖郎 裁判官 小林正明 裁判官 渡邉了造)

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